「ドブス対ジャクソン女性健康機構」 訴訟
他の通称 : 「ドブス対ジャクソン」 訴訟
人工妊娠中絶に関するアメリカにおける裁判 (訴訟)
1973 年に下されたロー判決を覆す判決 (ドブス判決) が下された
訴訟の概要
「ドブス対ジャクソン」 訴訟は、ミシシッピ州で中絶手術を行うジャクソン女性健康機構が、ミシシッピ州保健局長のトーマス・ドブス (Thomas Dobbs) を相手に提起した訴訟
訴訟の対象となったのは、2018 年に同州において制定された、月経後胎齢 15 週以降の中絶を禁止する在胎週数法 (Gestational Age Act)
原告は、同法が母体外生存可能性時前における中絶禁止を原則として禁じるロー判決]( 「ロー対ウェイド」 判決) に反し、憲法に違反していると主張
1 審、2 審共に、同法を違憲とする判決
ミシシッピ州は連邦最高裁判所に上訴し、2021 年 12 月に口頭弁論が実施
連邦最高裁判所は 2022 年 6 月 24 日に判決を下し、6 対 3 で原告は逆転敗訴
判決の概要
サミュエル・アリート (Samuel Alito) 判事による法廷意見の要旨
1. 合衆国憲法と中絶の権利
合衆国憲法修正第 14 条(22)は、合衆国憲法に記載されていない権利を保障するとしているが、そのような権利はこの国の歴史と伝統に深く根ざし、秩序ある自由の概念に暗黙のうちに含まれているものでなければならない
その上で、憲法修正第 14 条が採択された 1868 年までに、37 州中 28 州が、中絶を犯罪とする法律を制定していたことなどを指摘
中絶する権利はアメリカの歴史と伝統に深く根ざしてはおらず、合衆国憲法において中絶の権利は保護されていない
2. 中絶可能な妊娠期間
「ロー対ウェイド」 判決では、期間の提示に当たって母親の死亡率だけが考慮されているが、多くの健康や安全に関する規制では、死亡に至らない程度の健康への悪影響の回避も目的となっている
「ロー対ウェイド」 判決は、出生前の生命を保護する州の利益がやむにやまれぬものとなるのは、胎児の母体外生存可能性時であるとしたが、そのような線引きは恣意的である
胎児の生存可能性は、妊娠期間、胎児の体重、女性の一般的な健康と栄養状態、利用できる医療施設の質など、多くの要因を考慮せねばならないことを挙げ、実際には母体外生存可能性時による厳密な線引きはできない
といったことを指摘した
3. 結論
合衆国憲法は中絶の権利を認めていない
中絶の許容とその制限は、市民が互いに説得を試みた上で投票することによって解決されるべきであり、中絶の問題は人民に選ばれた代表者に返すべき
参考文献
アメリカにおける人工妊娠中絶の現状 ―覆された「ロー対ウェイド」判決―